今こそ考えたい仮想通貨とブロックチェーン ~インターネット台頭期にも似た巨大な可能性が開ける~

「20年前のインターネットと似た状況だ」。これは、ビットコインのマイニング事業への参入を表明したGMOインターネットの熊谷正寿氏(代表取締役会長兼社長・グループ代表)が、仮想通貨を指して語った言葉である。

インターネット普及の初期段階では、国境を越えるネットワークやWebの可能性の巨大さに大勢の人々が興奮し、爆発的な数の新規事業が立ち上がった。それと似た可能性・興奮を感じている人々が、仮想通貨やブロックチェーンの分野で出はじめているのだ。

参考:ニュース解説 - 半導体からデータセンターまで、GMOがビットコイン採掘に100億円投資:ITpro

Conceptual illustration of a Bitcoin sign shown as a huge array of small digital particles with depth of field, high resolution 3d render

世界に先駆け、日本で仮想通貨の法整備が進む

2009年に稼働開始したビットコイン(Bitcoin)は、8年以上にわたりほぼ無停止で動き続け、2017年11月5日時点の時価総額は約14兆円である。過去、ビットコインを扱う仮想通貨取引所のハッキング事件や一時的な入出金停止措置はあったものの、ビットコインのネットワークそのものは障害による停止もハッキング被害もなく動き続けている。

このビットコインに刺激されて、Ethereum(イーサリアム)など多数の仮想通貨が登場した。仮想通貨の統計サイトCoinMarketCapには、現在1,100種以上の仮想通貨がリストされている。これらはビットコインとは別の仮想通貨という意味で「オルトコイン」と呼ばれる。仮想通貨の種類は爆発的に増えているが、その出発点はビットコインだ。

ビットコインの発明者であるサトシ・ナカモトがその設計思想を記した論文[PDF]には、銀行のような「信頼できる第三者」を抜きに、P2P(Peer-to-Peer)アーキテクチャで二者間の送金を可能とするデジタルな「お金」の実現手法が記されている。ビットコインは特定の運用主体を信用する必要がなく、不正利用できず、発行量が特定の企業や国家の都合に左右されない。このことは、プロトコルの設計からも、また過去8年以上の実績からも立証されている。そこでビットコインを新しい「お金」として認める人々が増えている。

参考:日本語で読むビットコイン原論文 [by Satoshi Nakamoto] | Coincheck(コインチェック)

特に日本では、2017年より施行された改正資金決済法(仮想通貨法)により、ビットコインを筆頭とする仮想通貨を、世界に先駆けて公認した。多くの企業が参入して、仮想通貨のビジネス活用が始まりつつある。日本の法律では、仮想通貨とSuicaのような既存の電子マネーとの違いは、法定通貨建てではないこと(円との交換レートが変動すること)、そして幅広いユーザーの間で転々流通できる点である。

ブロックチェーン:信用できるデータ基盤の最高水準

ここで仮想通貨からいったん離れ、ブロックチェーン技術について見ていきたい。ブロックチェーンはビットコインの基盤技術に名前を付けたものだ*1。このブロックチェーン技術の認知度は高まっている。調査会社のガートナーが毎年発表する「ハイプ・サイクル」では、ブロックチェーンは2017年10月時点で「過度な期待」のピーク期の最中との評価である。

多くの仮想通貨は、誰でも参加できるP2Pネットワークで維持されている。この技術を指して、「パブリックブロックチェーン」と呼ぶ場合がある。一方、企業システム内で使われるブロックチェーンは「プライベートブロックチェーン」と呼ばれ、複数の企業グループが共有するブロックチェーンを「コンソーシアムブロックチェーン」と呼ぶ。企業システムでの利用で話題になっているのは、今のところプライベートブロックチェーンとコンソーシアムブロックチェーンである。

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図1. ブロックチェーンの概念図(経済産業省による「ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査」より)

ブロックチェーンは性能を犠牲に信用を追求

ブロックチェーンとは、そもそもどのような技術なのだろうか。図2は、仮想通貨取引所を運営するbitFlyerが開発・提供するプライベートブロックチェーン技術Miyabiの説明図である。エンジニアが慣れ親しんだデータ管理基盤としてリレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)やKVS(key-value Store)があるが、ブロックチェーン技術はこれら既存のデータ管理基盤とは異質だ。違いを整理すると、ネットワークで複数のノード(サーバー)に処理を分散できることは当然として、次の3点が大きな特徴といえる。

  1. 耐改ざん性あり(記録内容を改変することがきわめて困難)
  2. ビザンチン障害耐性あり(悪意がある挙動を持つノードがあっても合意形成が可能)
  3. 単一障害点なし

この3点を兼ね備え、考えられる最高水準の信用できるデータ基盤を作り出しているものがブロックチェーン技術ということになる。止まらず、消えず、改変できず、攻撃にも強いデータ基盤がブロックチェーンだ。

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図2. bitFlyerが開発提供するプライベートブロックチェーン技術「Miyabi」の説明図

ブロックチェーン技術には、従来のデータ基盤と比べて欠けている部分もある。RDBMSのようなリレーショナルデータモデルを扱えるわけではない。また、処理性能を追求しているわけでもない。ブロックチェーン技術は製品により大きな違いがあるが、一般にブロックチェーン技術ではリアルタイム性やトランザクション処理の一貫性は不得意分野だ。

パブリックブロックチェーンのビットコインは、7取引/秒が処理性能の上限と言われていた(なお、2017年8月の仕様改定で上限が約2倍に伸びた)。プライベートブロックチェーン技術の場合、オープンソースのHyperledger Fabricバージョン1.0は1,000取引/秒以上、前述のMiyabiは1,500〜2,000取引/秒の性能があるとしている。また、テックビューロのmijinは4,000件/秒以上の性能を確認している。

数字は環境や処理内容により大きく変動するが、最新のプライベートブロックチェーンは情報システムのほとんどのユースケースに必要十分な性能を持つと考えていい。ただし、処理性能を追求した場合、その上限が従来のデータベースシステムを上回ることはないはずだ。

ざっくり言えば、ブロックチェーン技術とは、「ビザンチン障害耐性がある合意形成アルゴリズム」という重たい処理を取り入れて、性能を犠牲にすることと引き換えに最高水準の「信用できるデータ基盤」を作り上げたものだと言っていい。

ブロックチェーン技術が性能を犠牲にする点に、抵抗を持つ人も多いかもしれない。そこで、次のように考えてみてはどうだろうか。私たちの社会では、契約書や公文書のような重要書類の作成では、複数の承認者が署名(あるいは捺印)するなどして承認の手続きに手間をかけることで内容の正しさを保証する。ブロックチェーンは複数のノードを使う合意形成アルゴリズムにより記録を承認する仕組みなので、この考え方に近いといえる。

最近は、ブロックチェーンよりも上のレイヤー(層)で性能を追求するアプローチが登場している。レイヤー2、あるいは2nd Layerと呼ばれる技術である。ビットコインと組み合わせて動くLightning Networkがその代表だ。少額決済(マイクロペイメント)を瞬時に実行できる技術で、人間が利用するだけでなく、機械同士の決済にも利用できると期待されている。

ブロックチェーンの使い道が見えてきた

プライベートブロックチェーン技術(あるいは分散型台帳技術)は多数登場している。前述のHyperledger Fabricや、Enterprise EthereumCordaは特に注目されている。日本からもMiyabi、mijinなど複数種類の技術が登場している。現在は、これらをさまざまなユースケースに適用した実証実験が進み、実事例への採用が出はじめている段階である。

今までの取り組みから見えてきたブロックチェーンの利用パターンを整理すると、次のようになる。

  1. プライベートブロックチェーン
    企業情報システムで、止まらず、改ざんできず、内部犯行にも強いデータ基盤として使う。特に従来型技術よりも低コストで無停止運転を実現できる点が評価されている。
  2. コンソーシアムブロックチェーン
    利害関係が必ずしも一致しない会社を含む企業グループが、データを共有するための基盤として使う。従来必要だった「第三者機関」の役割をソフトウェアで置き換えられる点が評価されている。銀行間送金、貿易金融、サプライチェーンなどの事例が出つつある。
  3. データ市場
    中立で、改変できないデータ基盤として用いる。例えば自動運転車開発のための自動車走行データを複数の企業や個人から広く集めたい場合、特定の会社と利害関係のない中立なデータ基盤が求められるが、その役割にはブロックチェーン技術が向いている。またデータの出所、真正性を保証するためにも利用できる。
  4. 電子行政
    信頼できるデータ基盤としての特性を活かして、住民台帳、土地台帳のような重要な台帳の管理にブロックチェーン技術を用いる。国ではエストニアなど、自治体ではベルギーのアントワープ市などが取り組みを進行中だ。
  5. 企業発行のデジタル通貨
    ブロックチェーン技術を応用して企業発行の電子マネーを実現する。値動きがなく管理主体がある点で、仮想通貨とは異なる概念である。スマートフォンアプリで利用できる利便性を備え、企業ポイントと同じく顧客のデータを集めることができる。日本でも、三菱東京UFJ銀行が「MUFGコイン」の実証実験を社内で進めている。ほかにも、大阪の商業施設「あべのハルカス」では、近鉄グループホールディングスと三菱総合研究所が手を組み、一般消費者が利用できる「近鉄ハルカスコイン」の実証実験が進められている。また、みずほフィナンシャルグループ、ゆうちょ銀行らは「Jコイン」、SBIホールディングスは「Sコイン」に取り組むことを明かしている。
  6. 中央銀行発行のデジタル通貨
    中国、ロシア、ドバイ、オーストラリアなどが、自国の中央銀行発行のデジタル通貨への取り組みを明らかにしはじめている。国の中央銀行が発行するデジタル通貨は、仮想通貨と同様に国境を越える決済を瞬時に実行できる利便性を備えながら、資金を自国の中央銀行管理下に置くことができる。中央銀行発行のデジタル通貨は、基軸通貨の米ドルやユーロではなく自国通貨での決済を進めたい国にとって、強力な武器になる可能性がある。

ICO:資金とユーザーをロケットスタートで集める

仮想通貨を応用した資金調達方法のICO(Initial Coin Offering)に注目が集まっている。株式会社を設立してベンチャーキャピタルから資金調達をするやり方と比べ、より短期間、手軽に、しかも巨額の資金を集める例が続々と登場している。「仮想通貨で資金を集め、ブロックチェーン技術を応用してプロダクトを作る」という新たな事業の形態が登場しているのである。

例えば2014年、Ethereumプロジェクトの立ち上げでは、ビットコイン建てで広く資金を募り、約20億円相当を集めた。資金はEthereumの開発と普及に使われた。

2016年前半には、非中央集権の投資ファンドを目指したThe DAOが、仮想通貨により160億円相当を集めた。残念ながら、その直後にハッキングにより1/3の資金を失う事態に見舞われた。複雑な経緯を経て、The DAOが集めた資金は出資者のもとに返された。

参考:コードで定義された“ほぼ”自律的で民主化されたベンチャーファンド、The DAOが1.3億ドルを集めて始動 | TechCrunch Japan
参考:セキュリティ・ホットトピックス - 暗号通貨ファンド「The DAO」から数十億円分が流出:ITpro

最近は日本のプロジェクトが関わるICOも目立つようになった。新たなソーシャルメディアの立ち上げを目指しているALISは、ICOにより約4.3億円相当を調達。また、COMSAのICO(テックビューロのICOソリューションCOMSAの初期資金を集めるもの)は、約109億円相当の資金を集めた。

ICOの問題点としてよく指摘されることは、資金を集めながらも成果が出せないプロジェクトが目立っていることだ。チームが未熟な段階で大きな資金を手にしたことで、プロジェクトを前進させる動機が失われている例が多いのかもしれない。さらに悪いことに、詐欺的なICO案件も多いとの指摘がある。米SEC(証券取引委員会)では、前述のThe DAOをはじめとする多くのICOを、SECの規制対象である「有価証券」と認定。また詐欺的なICOを行った事業者を告発した。中国では「ICOのほとんどは詐欺」として、ICO規制を強化した。プロジェクトの規律はICOの課題となっている。

ICOプロジェクト側も、資金を「集めっぱなし」ではないことを示す努力を始めている。前出のALISはプロジェクトの進捗を小刻みにTwitterやSlackで共有する。COMSAは、委員会を設置して助言を仰ぐ体制としている。

このように、ブロックチェーン技術と仮想通貨には大きな可能性が見えてきている。一方でブロックチェーンには技術的に未成熟な部分もまだ残っており、利用者の認知もまだまだ進んでおらず、制度も追いついていない。今の仮想通貨やブロックチェーンはWebが普及しはじめた頃のインターネットのように混沌とした可能性と課題に満ちた段階といえる。特に、世界に先駆けて仮想通貨を法的に認めた日本にはチャンスがある。技術に親しみ、柔軟な発想を持った若い世代の目の前には、仮想通貨やブロックチェーンの発展に参加できる大きな可能性があるのだ。

執筆者プロフィール

星暁雄(ほし・あきお) AkioHoshi

AkioHoshi

ITジャーナリスト。日経BP社で『日経Javaレビュー』編集長などの経験を積み、2006年に独立。IT分野全般にまたがる幅広い取材経験を持つ。最近は仮想通貨/ブロックチェーン分野に強い関心を持っている。
ITジャーナリスト星暁雄の"情報論"ノート

*1:ブロックチェーンを技術的に見ると、P2P技術、暗号学的ハッシュ関数、合意形成アルゴリズムの3種類のテクノロジーを組み合わせて設計したデータ基盤といえる。特に合意形成アルゴリズムの選び方でブロックチェーンの性格は大きく変わる。ビットコインで用いる合意形成アルゴリズムのPoW(Proof of Work)は数千ノードの超大規模P2Pネットワークで機能するが、動作が確率現象となるので一定の時間を待って決済確定と見なす使い方をする。Hyperledger FabricではPBFT(Practical Byzantine Fault Tolerance)の延長にあるアルゴリズムを用いる。決済が確定的になる(ファイナリティがある)一方で、ノード数の上限はPoWよりも低い。