夢の宇宙は、もうただの夢ではなくなりつつある! 日本でも活況な「宇宙開発ベンチャー」5社それぞれのチャレンジ

宇宙開発はかつて、国家が莫大な予算を投じて行うものだった。アメリカにはNASA、日本にはJAXAという宇宙機関がある。これらがロケットや人工衛星、探査機などを開発、運用してきた。

しかし現在、宇宙開発は国が主導して行うものではなくなっている。宇宙は民間企業が利益を上げる、ビジネスを行う場所になっているのである。アメリカではすでに、スペースX社が自社開発したロケット「ファルコン9」と宇宙船「ドラゴン」が国際宇宙ステーション(ISS)への補給ミッションをこなすまでになっている。スペースXは有人宇宙船「ドラゴン2」も開発中で、2019年末に野口聡一宇宙飛行士が搭乗しISSへ向かう宇宙船に採用される可能性もある。

日本にも、月面探査車やロケット、人工衛星などを開発している宇宙開発ベンチャーがある。中にはすでに実運用で実績を積んでいるところもある。彼らにとって宇宙は遠い夢ではない。自分の仕事をする舞台なのだ。

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(CG提供:ispace, inc.)
  • 「HAKUTO」に続く新しい月探査計画を発表したispace
  • すでに3機の超小型人工衛星を運用しているアクセルスペース
  • 小型の宇宙ロケットを開発しているインターステラテクノロジズ
  • 人工流れ星のサービスを目指すALE
  • 宇宙観光旅行を提供するPDエアロスペース

ispaceは「HAKUTO」に続く新しい月探査計画を発表

月へ向かう無人探査車(ローバー)を開発中の「HAKUTO」チームは今、正念場を迎えている。民間による最初の月面無人探査を競うコンテスト、「Google Lunar X Prize」の最終期限が2018年3月末に迫っているためだ。コンテストのミッションは、無人の探査機を月面に着陸させ、そこからローバーを500メートル移動させて、高解像度の映像や画像を地球に送信するというもの。これらを最初にすべて達成したチームが、最高賞金の2,000万ドルを獲得することになる。

参加5チームのなかで唯一日本から参加している「HAKUTO」チームは、袴田武史氏(38)が率いるispace社、東北大学の吉田和哉研究室とボランティアメンバーで構成されている。HAKUTOのローバー「SORATO」は、インドのチーム「TeamIndus」が開発する月着陸船(ランダー)に相乗りし、インドのPSLVロケットで打ち上げられる。去年の12月に「SORATO」をインドへ輸送し、3月末の期限に間に合わせるスケジュールだ。Google Lunar X Prizeが立ち上がったのは2007年9月。10年半にわたる月への挑戦の総決算が近づきつつある。

月ローバー「SORATO」
▲HAKUTOが開発している月ローバー「SORATO」が鳥取砂丘でフィールド試験を行う様子。全長58センチメートル、高さは36センチメートルで重さは4キログラム(提供:HAKUTO)

ispaceの月探査はこれで終わらない。2017年12月13日、ispaceは月着陸船(ランダー)による2回の月探査ミッションを行うと発表した。日本初の民間による月探査である。まず2019年末に着陸船を月周回軌道へ送って探査を行い、翌年末には次の着陸船を月に着陸させて探査を行う。すでに産業革新機構や日本政策投資銀行など、合計12社から101億円あまりの出資を受けている。自社開発の着陸船やローバーにはほかの荷物も搭載でき、月への物資輸送も可能であるという。

月ランダー(CG)
▲ispace社が発表した月ランダーのCG。右下にはランダーから出てきたローバーが見える(提供:ispace, inc.)

月の極地にはクレーターの底に日が当たらない場所があり、そこに凍った水が存在すると考えられている。もし水が十分にあれば、有人活動に必要な水を地球から運ぶ必要はなくなる。また水を水素と酸素に電気分解すればロケットの燃料にもなる。月を往復する宇宙船は帰りの燃料を積んでいく必要がなくなるし、火星や小惑星へ探査機を送り出すロケットの中継基地として、月を利用できるようになる可能性もあるのだ。

ispaceは月資源の開発によって2040年には月面に1,000人が暮らし、年間1万人が観光に訪れるというビジョンを打ち出した。「SORATO」の月探査はその第一歩になるかもしれない。

▲ispaceが12月に公開した動画では、2040年の月に人間が定住するビジョンが語られている(提供:ispace, inc.)

アクセルスペースの超小型人工衛星はすでに3機が運用中

2008年8月に設立されたアクセルスペース社は、超小型人工衛星の開発と運用を行っている。ここでいう「超小型衛星」とは、一辺の長さが数十センチメートル程度、重量約100キログラムまでの人工衛星を指す。大型の人工衛星が本体数メートル、重量が数トンあるのに比べると格段に小さい。大型人工衛星の開発が5年から10年、数百億円かけて行うのに対し、超小型衛星の開発期間は長くても2年ほど、費用も数億円ですむ。

株式会社アクセルスペース

2003年に4カ国、6つの大学が初めて打ち上げた「キューブサット」に始まり、東京大学で3機の超小型衛星作りに携わった中村友哉氏(38)はこれを仕事にしたいと考えた。しかし宇宙産業界で超小型衛星は教育目的ととらえられており、商用のものはない。そこであきらめなかった中村氏は、超小型衛星の事業を行うアクセルスペースを起業した。

超小型衛星は安く、早く開発し運用できるといっても、企業が「マイ衛星」を持つメリットをなかなか提示できない。いくつもの企業を回っても色よい返事がないなか、天気予報サービスを行うウェザーニューズ社が自社で人工衛星を持つ計画があるとわかった。目的は北極海を観測すること。地球温暖化の影響か、北極海の海氷は縮小が続いている。2005年の夏以降、船舶が北極海経由でヨーロッパと太平洋を行き来できる航路が開けていた。北極海航路はスエズ運河や喜望峰を回る従来の航路より格段に距離が短くなるため注目されており、海氷の状況を頻繁に観測する需要が高まっていた。そこでウェザーニューズ社は海氷を観測する専門の人工衛星を持つことになったのである。

ウェザーニューズ社と共同で開発した「WNISAT-1」は27センチメートル立方で10キログラム。2013年11月にロシアのロケットで打ち上げられ、商用としては世界初の超小型人工衛星となった。同社はこのあとも、2014年11月の地球観測衛星「ほどよし1号」に続き、2017年7月にはウェザーニューズ社の2機目の人工衛星「WNISAT-1R」を打ち上げた。

人工衛星「ほどよし1号」が撮影した千葉県
▲アクセルスペースの人工衛星「ほどよし1号」が撮影した千葉県。衛星画像は「AxelGlobe」で公開中(提供:アクセルスペース)
WNISAT-1R
▲世界初の商用超小型衛星となった「WNISAT-1」の後継機、「WNISAT-1R」。約50センチメートル立方、43キログラムで4基のカメラを搭載した(提供:アクセルスペース)

アクセルスペースでは現在、さらに壮大なプロジェクトが進行中だ。それは、100キログラムサイズの地球観測衛星「GRUS」を50機打ち上げて連携させ、地球全体の画像を毎日取得する「AxelGlobe」計画である。衛星画像は価格が高く、希望の地点の画像を取得するタイミングを選べないといった現状を打破する。GRUS衛星は最初の3機を2018年に打ち上げ、2022年に50機がそろう予定だ。年間8ペタバイトに及ぶという「宇宙ビッグデータ」の構築を目指し、アクセルを踏み続ける。

GRUSの運用イメージ
▲開発中の「GRUS」の運用イメージ。人工衛星そのものではなく衛星画像の提供で事業を行う(提供:アクセルスペース)

インターステラテクノロジズは小型の宇宙ロケットを開発中

2017年7月30日に、初めて高度100キロメートルの宇宙空間を目指して液体燃料ロケット「MOMO」を打ち上げたのがインターステラテクノロジズ社だ。残念ながら打ち上げ後66秒、推定高度約20キロで機体に異常が発生、宇宙へ到達することはできなかった。現在は2018年春の「MOMO」2号機の打ち上げに向けて改良を進めている。


観測ロケット「MOMO」
▲インターステラテクノロジズの観測ロケット「MOMO」は全長約10メートル。右端が社長の稲川貴大氏(提供:インターステラテクノロジズ)
▲2017年7月30日に行われた「MOMO」1号機の打ち上げ(提供:インターステラテクノロジズ)

「MOMO」は観測機器や実験機器を高空へ打ち上げるための「観測ロケット」だ。高空へ打ち上げ、機器が落下する時間を使ってさまざまな観測や実験を行う。「MOMO」の打ち上げが成功すれば、次はいよいよ人工衛星を軌道投入するロケットの打ち上げを目指すことになる。

軌道投入ロケット(CGイメージ)
▲軌道投入ロケットのCGイメージ(提供:インターステラテクノロジズ)

資金調達と話題作りのためにクラウドファンディングを行っているのも特徴だ。「MOMO」1号機のクラウドファンディングでは734人の支援者から2,270万円余りを集めた。現在は「今度こそ宇宙へ! MOMO2号機をみんなで飛ばそう」として、2月11日締め切りで「MOMO」2号機へのクラウドファンディングを募っている。

インターステラテクノロジズの前身は、実業家の堀江貴文氏、マンガ家のあさりよしとお氏、SF作家の笹本祐一氏、宇宙機エンジニアの野田篤司氏らが集まってロケットの打ち上げを目指す有志だった。「なつのロケット団」としてエンジンを開発していき、2011年3月26日に初めてのロケット打ち上げを成功させた。そこから6年かけて有志の団体はインターステラテクノロジズという会社組織になり、最初の社員(現在は社長)に稲川貴大氏(30)を迎え、今年の「MOMO」の打ち上げへ至ったのだった。

近年はアクセルスペースのように超小型衛星を開発する企業が増えている。電子機器の高度化、低価格化が進み、小さな人工衛星でできるミッションが広がってきた。一方で、超小型衛星の打ち上げには不自由がつきまとう。H-IIAロケットのような大型ロケットの衛星打ち上げに相乗りさせてもらうことが多いからだ。打ち上げ先の軌道は主衛星が優先で、主衛星のスケジュールが遅れれば相乗り衛星の打ち上げも延期になる立場だった。

超小型衛星が小型ロケットの主衛星になれば、打ち上げ時期や軌道を自由に選べることになる。インターステラテクノロジズはここに商機を見出した。目指すのは小さな荷物を安価に、好きな軌道へ打ち上げられる「宇宙のバイク便」だ。大きな荷物を打ち上げる、宇宙トラックのような大型ロケットとは異なるフィールドで、宇宙を身近にしようとしている。

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▲「MOMO」2号機のデザインイメージ。先端にデザインされているのはスポンサーであるレオス・キャピタルワークスの「ひふみ投信」のイメージキャラクター、「ひふみろ」(提供:インターステラテクノロジズ)

人工流れ星のサービスを目指すALE

流れ星は、地球の大気圏に数ミリほどの小さな粒子が突入して発生する。2001年11月のしし座流星群は当たり年で、日本では1分間に数十個もの流星が見られる大出現となった。当時、大学で天文学を学んでいた岡島礼奈氏(38)もこの流星雨を見ており、流れ星を人工的に作れるのではないかという着想が生まれたという。

卒業後の岡島氏はゴールドマン・サックスで投資の現場を学んだのち、2011年に人工流れ星をエンターテインメントとして提供するALE社を立ち上げた。


人工流れ星のイメージ
▲人工流れ星のイメージ(提供:ALE)

流れ星を人工的に流すには人工衛星を使う。流れ星のもととなるビー玉サイズの金属の粒(流星源)を人工衛星に搭載して打ち上げ、軌道上から地球へ向かって流星源をガスで押し出す。流星源が大気圏に再突入する際にプラズマ発光し、地上からは流れ星として見えるしくみだ。流星源が発光する高度は85キロメートルから60キロメートルまでと、人工衛星よりは低く、旅客機の最高高度よりは高い。流星源はそのまま燃え尽き、地上に落ちることはない。

大気圏突入時の速度が天然の流れ星より遅く、また流星源は流れ星の素材としては大きいため、ゆっくり明るく、また長い間輝くと予想されている。3回となえて願いをかけやすい流れ星になるだろう。同時に、入射角や速度が事前にわかっている流れ星を作ることで、自然由来の流れ星の研究に寄与する可能性もある。

ALEが打ち上げる人工衛星(CG)
▲ALEが打ち上げる人工衛星のCG。東北大学と共同開発している(提供:ALE)

人工流れ星を流すイベントの準備はすでに始まっている。2019年に広島・瀬戸内で開催する計画の「SHOOTING STAR challenge」だ。協賛としてファミリーマートとJALが名乗りを上げている。人工流れ星は高空で発生するため、観測できる範囲も半径約100キロメートルと広い。広島市を中心に、広島県全体と島根県のほとんどに加え、西は山口市や萩市、南は松山市のさらに南までが観測範囲となる。

ロケットや宇宙船、人工衛星を開発しているベンチャーは日本や海外に数多くあるが、人工流れ星のサービスを目指している宇宙開発会社はALEのほかにない。ALEは誰も見たことがない人工流れ星の実現という、唯一無二の目標に向かおうとしている。

H.I.S.とANAが出資し宇宙観光旅行を提供するPDエアロスペース

緒川修治氏(47)が率いるPDエアロスペース社は日本で唯一、具体的なゴールを設けて有人宇宙船に取り組んでいるベンチャーだ。有人宇宙旅行を2023年12月にサービスインする目標でスペースプレーン「ペガサス」を開発している。計画では飛行時間は90分。宇宙で5分間の無重量体験も可能だ。料金は1,400万円で、将来的にはもっと安価にしたいと意気込む。

鍵となる技術が、ジェット燃焼とロケット燃焼を切り替えられる独自開発のエンジンだ。離着陸時はジェットエンジンモードで、外部から酸素を取り込んで燃料を燃やし推力を得る。空気が薄くなる高度15キロメートルでロケットエンジンモードに切り替え、宇宙空間へ往復する。ひとつのエンジンを2つの方式で燃焼できるため、ジェットエンジンとロケットエンジンをそれぞれ搭載するよりシンプルなシステムとなり、コスト面でも重量面でも有利だ。また一般的な空港から単独で離着陸できるのもメリットとなる。エンジンの方式はパルスデトネーション方式といい、実用化できれば世界初となる。

▲PDエアロスペースが開発中のパルスデトネーションエンジン。小さな爆発をくり返して推力を得る(提供:PDエアロスペース)

パイロットや宇宙飛行士を目指すもかなわず、自動車部品メーカーに勤めていた緒川氏が起業を決意したのは「Ansari X Prize」がきっかけだった。Google Lunar X Prizeを主催するXプライズ財団が、民間による最初の有人宇宙飛行に1,000万ドルの賞金を出したコンテストである。2004年6月にスケールド・コンポジッツ社の「スペースシップワン」が高度100キロメートルの宇宙空間へ到達したのを見て発奮、2007年にたった一人でPDエアロスペースを立ち上げた。

現在は、要素技術を獲得するための無人機を開発している。エンジンの燃焼モード切り替えテストは2017年7月に成功した。今後は無人機の高度100キロメートル到達を2019年4月に予定。2021年8月に、有人機の100キロメートル到達を目標にしている。2016年12月にはH.I.S.ANAホールディングスからの出資を得て、さらに開発を加速させた。緒川氏の心に火をつけたスケールド・コンポジッツは今や民間宇宙旅行をともに目指すライバルだ。PDエアロスペースはそのスケールド・コンポジッツに追いつき、追い越すかもしれない。

スペースプレーン「ペガサス」のイメージ
▲右から、エイチ・アイ・エスの澤田秀雄会長兼社長、PDエアロスペースの緒川修治社長、ANAホールディングスの片野坂真哉社長。パネルはPDエアロスペースが開発中のスペースプレーン「ペガサス」のイメージ。全長14.8メートル、定員は2名のパイロットを含む8名(提供:PDエアロスペース)

日本の宇宙開発ベンチャーはさらに活気を増す?

日本発の宇宙開発ベンチャーにはほかに、宇宙ごみ(スペースデブリ)を除去する衛星を開発中のアストロスケール、小型化したレーダー衛星で時刻や天候によらない地球観測を目指すQPS研究所、超小型衛星の開発キットを販売するスペースシフトなどもある。

なぜ、いま日本で宇宙開発ベンチャーが活況なのか。この背景のひとつに、2016年11月に成立した「宇宙活動法」がある。国が定める基準を満たすことで、ロケットや人工衛星の打ち上げを民間企業に許可する。これまでJAXAが一手に担ってきた宇宙開発に、さまざまな企業が参入しやすくするのが狙いだ。そのほか日本の宇宙政策については内閣府のページにまとめられている。

本記事で挙げたほかにも、思いもよらないアイデアを持ったベンチャー企業が宇宙産業に加わってくるかもしれない。宇宙開発の仕事の領域が広がり、宇宙を夢から現実に変えることができる人が増えていくことに期待したい。

執筆者プロフィール

今村勇輔(いまむら・ゆうすけ)

今村勇輔
フリーランスの編集者/ライター。宇宙作家クラブ会員。
編集プロダクション勤務、エクスナレッジでの雑誌『CAD&CGマガジン』や一般書籍の編集を経て独立。エクスナレッジ時代の担当書籍は『プラネタリウムを作りました。』(大平貴之・著)、『ポール・スローンのウミガメのスープ』、『キューブサット物語』(川島レイ・著)、『スペースシャトルの落日』(松浦晋也・著)、『昭和のロケット屋さん』など。最近の仕事は『3Dプリンタ デスクトップが工房になる』(インプレス刊)、『イプシロン・ザ・ロケット』(西澤丞・著/オライリー・ジャパン刊)、『エンジニアのためのAI入門』(インプレス刊)など。
Imamuraの日記」は10カ月遅れで更新中。


※記事公開後、ALEが打ち上げる人工衛星のCG画像のキャプションなどを修正しました(2018年1月4日)