「まず、1台作り上げる」しっぽ付きロボットを生み出したユカイ工学に見る、これからのロボット開発者の適性

2017年秋に開催されたIT関連の展示会「CEATEC JAPAN 2017」で、もふもふしたロボットが披露された。「Qoobo(クーボ)」と名づけられたそのロボットは、両腕で抱えられるくらいの大きさで、動物のようなファー(毛皮)をまとっており、さらにはしっぽまで生えている。一見しただけではロボットには見えないが、手で触れるとネコのようにしっぽを振り、まるで生きているかのようだ。

shop.qoobo.info

このロボットを開発したのは「ロボティクスで世の中をユカイにする」をテーマに掲げている「ユカイ工学」というスタートアップ企業。創業者でCEOも務める青木俊介さんは、ロボットが作りたくて会社を設立し、これまでに脳波を検知して動きで感情を表現する猫耳型ツール「necomimi」、クラウドと連携して家族のコミュニケーションを支援するロボット「BOCCO」などを開発してきた。

Qooboは、発表直後からKickstarterでクラウドファンディングを開始し、わずか6日間で目標金額に到達。最終的には1000万円を越える出資金集めに成功した。この「しっぽのついたクッション型セラピーロボット」というユニークなアイデアと、それを実現するだけの技術、そして製品としてまとめるデザインを、ユカイ工学のスタッフはどのように学んで発揮できたのか。CEOの青木俊介さん、ロボットエンジニアの山田康太さん、デザイナーの高岡尚加さんにお話を伺った。

ユカイ工学 | YUKAI Engineering – THE ROBOT COMPANY

デザイナーの欲望とエンジニアの欲望が合体した「Qoobo」

「Qoobo」の基となるアイデアが形になったのは、2017年春に実施された「アイデア合宿」でのこと。「誰かの課題を解決する、誰かが喜ぶものを作る」をテーマに、エンジニアやデザイナーなど複数の職種のスタッフでチームを編成して、コンペを行った。そのなかで高岡さんが参加するチームから生まれたのが「Qoobo」だ。

「動物が飼えないマンションだったり、仕事が忙しかったり、アレルギーを持っていたりして動物が飼えない人がいますよね。自分自身もそうなので、こういうものが欲しいと思っていたんです」(高岡さん)

高岡さんは、実家では多くの動物を飼っており、寝るときはいつも犬や猫と一緒だった。一人暮らしを始めてからはペットが飼えなくなったため、いつも寂しく思っていたそうだ。そこで、ペットが身近にいるかのように感じられるアイテムが欲しくて、アイデア合宿で提案した。


左からデザイナーの高岡尚加さん、CEOの青木俊介さん、エンジニアの山田康太さん

ただ、そうしたアイデアを製品に落とし込む段階で、単に「ペット型ロボット」にしないのが、ユカイ工学の特長だ。できるだけシンプルで、かわいらしくて、生活に溶け込むようなものを目指す。

「最先端のものを作るというよりは、シンプルにして、問題をひとつ解決できるものを作りたいです。技術をただたくさん盛り込むのではなく、そぎ落としていって、本当に必要なものだけを残しています」(高岡さん)


青木さんは大学在学中にチームラボの立ち上げに参画しCTOを務め、2007年にユカイ工学を創業した

ユカイ工学では、製品開発のきっかけがスタッフの個人的なニーズから生まれることも多い。コミュニケーションロボットの「BOCCO」も、青木さんが家族ともっとコミュニケーションしたいという、自分の欲求から始まっている。このように、自分が持っているニーズやアイデア、技術的な興味から試作したものなどが、製品開発のスタートになることもよくあるそうだ。

「Qoobo」の場合も、高岡さんの「動物みたいなロボットが欲しい」というニーズに、とあるエンジニアが作っていた「しっぽ型メカ」を取り入れることで実現した。

「犬も猫も飼っているエンジニアが、自分の興味で猫のしっぽ型メカを作っていたんです。最初にQooboのプロトタイプを作っていたときに、私が『やっぱりしっぽが欲しいなー』と話をしたら、そのエンジニアが自分が作っていたしっぽ型メカを短く切って、プロトタイプに組み込んでくれました。だから、Qooboは『犬や猫と一緒に寝たい』という私の欲望と、『しっぽ型メカを作りたい』というエンジニアの欲望が合体してできているんです」(高岡さん)

高岡さんが話すように、エンジニアの個人的なプロジェクトだった「しっぽ型メカ」が、業務に生かされる結果となった。このようにユカイ工学では、エンジニアが業務以外で個人的な開発を行うことを積極的に推奨している。青木さんも「放っておいても自分で勝手に開発する人しか採用しないようにしています(笑)」と話す。

「僕たちの製品は、あるプロジェクトで使った技術を応用して別の製品を作る、というように発展させていることが多いんです。通常業務のなかでは『こんなのあったらいいよね』とアイデアが出てきても、実際に形にして組み込むのはものすごく大変です。そういうアイデアを実現できる場所を用意したいと考えました」(青木さん)

そのような環境が整えられているため、同社のエンジニアは皆、週末を利用してハッカソンに参加したり、展示会に出展したり、コンテストに応募したりすることも多い。個人的な開発においても、業務に支障がない範囲で社内の3Dプリンターなどの設備を使うことができる。

個人的に開発した試作品や技術については社内で広く共有されており、先の高岡さんのようにエンジニア以外のスタッフにも、エンジニアの得意なこと、好きな技術が知れ渡っているのだ。

「エンジニアもデザイナーも同じ机で毎日仕事をしていて、すごく距離が近いので、お互いにどんな仕事をしているのか、どんなことを考えているのかなど、話しながら進めることができるんです。職種の区切りが他の会社よりははっきりしていない気がします」(高岡さん)


高岡さんは美大で焼き物を専攻していたが「全然違うことがしてみたくなって」ユカイ工学に入社した

このようにチームで仕事に取り組むというケースは、ユカイ工学に限らず多いだろう。だが、ユカイ工学では、特にデザインするものがないプロジェクトであってもデザイナーを参加させることが多いそうだ。デザイナーの持つ能力が、円滑なコミュニケーションや意見のとりまとめといった点で効果的なのだという。そして、エンジニアとそれ以外のスタッフとの距離が近いという環境が、デザイナーが活躍できる大きな要因のひとつになっている。

ロボット人生では「作りたいと思ったものを力ずくで作ってきた」

ユカイ工学でロボットエンジニアを務める山田さんは、業務以外に個人でもロボットを開発している。あらゆるジャンルの自作のものを展示・デモンストレーションするイベント「Maker Faire Tokyo」にも4年連続で出展しているという。

「Maker Faire Tokyo 2017では、ロボットがコーラを出してくれるカフェをやりました。ロボットが瓶のコーラの栓を抜いて、グラスに注いで出すという一連の動きを、すべて自動で行います」(山田さん)

山田社長 | Maker Faire Tokyo 2017 | Make: Japan

山田さんのロボットは、造形のかわいさやアイデアのユニークさもあって、Maker Faireを取材したメディアなどでも取り上げられたことがある。これだけのものを開発した山田さんのロボット開発歴は、小学生の頃までさかのぼるという。

「小学4年生の時に、二足歩行ロボットの大会をテレビで見て、僕も作りたいと思ったので本を買ってサーボ制御について学びました。そこから僕のロボット人生は始まりました(笑)」(山田さん)

その時読んだ本を基に、自力で二足歩行ロボットを完成させ、15歳の時には二足歩行ロボット同士に格闘をさせる大会にも出場した。大会に出場するとなると、サーボの制御だけでなく、より深い電気回路の知識やプログラミングの技術も必要になってくる。そうした技術は、ちょうどその頃、ロボットブームに合わせて秋葉原に登場したロボット専門店の店員に質問したり、ロボットに関する書籍で学んだりした。

「小学校の卒業文集に将来の夢をロボットエンジニアって書いたんです。僕はロボットエンジニアになりたくてしょうがなかったんです。ロボットも大好きだし、エンジニアって言葉もムチャクチャ格好いいじゃないですか」


山田さんは入社2年目で、得意分野は基板設計。
現在はNC切削機(コンピュータによる数値制御で切削・加工をする機械)の操作を先輩から学んでいる

その後、山田さんは進学することなく、ひたすら独力でロボットを作り続けた。ロボット工学の専門的な教育を受けたわけではないが、とにかくロボットを作り続け、新たな技術が必要になるたびに独力で突破し続けた。

「専門の学校に通ったわけではないので、専門分野もないんです。ただ、僕は作りたいと思ったものをひとりで、力ずくで作ってきました」(山田さん)

その後、偶然にもユカイ工学のエンジニアに自分のロボットを見せたことがきっかけとなって、ロボットエンジニアとして入社した。山田さんは、そんな自分のこれまでを振り返り、「ロボットエンジニアになるため強引に学んできた」と笑いながら話してくれた。

専門的な教育を受けたわけではないものの、独力で学び、どんな形であれロボットを完成させた――その経験が山田さんにとっての強みであり、それがあるからこそ現在のエンジニアとしての立ち位置がある。

青木さんも、完成させることの大切さを次のように話す。

「ロボットは複合技術なんです。ロボットエンジニアは、ひとつの技術に詳しいということも重要ですが、いくつかの技術を組み合わせてちゃんとロボットの形にして動かすことを経験していることが大事です」(青木さん)

ロボット作りへの道は誰にでも開かれている

ロボットは、必要とされる技術の範囲が非常に広い。例えば「日本ロボット学会(1983年1月創立)では、二足歩行の専門家はもちろんのこと、心理学の研究者や画像認識技術の開発者など、さまざまな分野の技術者・エンジニアが集まっている。

近年はAI技術が発達してきたこともあり、ロボットに関わる領域はハードウェアやソフトウェアだけでなく、データ解析にまで広がってきている。青木さんも「全部を『ロボット技術』と言えてしまう」と語る。

「ロボットのエンジニア」として働くには、新しい技術を自ら学ぶ姿勢こそが最も必要なのだ。自ら学ぶエンジニアだからこそ、新たな技術を身につけ、実際に試作することで、製品のアイデア創出へとつながっていく。

実際にユカイ工学のエンジニアも、電気回路が得意な人、組み込みエンジニアで経験を積んだ人、メカの専門家、アプリのプログラマーなど、それぞれ強みとなる分野が違う。だが、皆がロボットのエンジニアであり、いざとなればひととおりロボットを組み上げられる人が多い。

「教科書でイチから学んでいくよりは、なにか作りたいものがあって、それに必要なことを学んでいく方が、学習効率も良いですし、成果として実際にものが出来上がるのでモチベーションも高くなります」(青木さん)

インターネットが普及した現在、技術に関する情報が探しやすくなっており、ふとしたきっかけからより深く学んでいくことが可能になっている。また、同じ会社にいる同じロボットエンジニアでも、個々人によって得意な技術分野が異なるため、周りから学べることも多い。

デザイナーの高岡さんも、これまではもっぱら筐体の外形や塗装といった、手作業による造形に関わることが多かった。しかし、他のデザイナーの仕事を見ていくなかで、CADによる設計や3Dのモデリングといったデジタル技術を使ったデザインに興味を持ち、学ぼうとしている。そのための手がかりは、社内に多くあるばかりか、社内で足りなければ外部に求めることもできる。ユカイ工学ではそうしたことを推奨している。

「ロボットを完成させることが大事。だけど、全部自分でやらなくてもいい。仲間と一緒に作り上げるのも良いんです」

ロボットに憧れを持ち、いつか関わりたいと思っているエンジニアがいるなら、その人が持つ技術はどこかで必ずロボットに通じていくはず。ロボットエンジニアへの道は、想像以上に広く開かれているのかもしれない。

執筆者プロフィール

青山 祐輔(あおやま・ゆうすけ)

青山祐輔

ITジャーナリスト。インプレスにて「Impress Watch」「月刊iNTERNET magazine」などの編集記者、リクルート「R25」のウェブディレクターなどを経て独立。現在は主に、AIによる社会のデジタルトランスフォーメーションと、メイカームーブメントによる企業のイノベーションの現場を追いかけている。 B.M.Factory – Nothing but a text.