オウケイウェイヴがAIとブロックチェーンに技術投資する理由~「ありがとう」をテクノロジーで繋ぐ~

オウケイウェイヴといえば日本最大級の規模を誇る「OKWAVE」を運営するQ&Aサービスのパイオニア企業だ。
さらには「OKWAVE」を運営するなかで蓄積されたFAQのデータ、ノウハウを生かして法人向けにFAQシステムの「OKBIZ.」も展開している。そのシステムは国内トップシェアNo.1を占め、今では三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、ゆうちょ銀行、りそな銀行の5大銀行すべてが利用するほどだ。

これだけの高い実績と信頼を獲得していれば、今の基盤を守ることに注力する道もあったはず。それにも関わらず、オウケイウェイヴは2017年から「ABCテクノロジー*1を掲げ、研究開発を進めている。その意図は何なのだろうか。

今回のインタビューでは、オウケイウェイヴが新技術の開発に積極的に取り組む理由を、創業初期からオウケイウェイヴの開発を牽引してきたVP of Engineering(Vice President of Engineering)の加藤 義憲氏と、現場で指揮を執る研究開発部長の長島 徹氏に聞いた。

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【目次】

なぜQ&AサービスのパイオニアがAIとブロックチェーンの開発に取り組むのか

──こういったインタビューはよく受けられますか?

長島 私たちエンジニアは基本的には裏方なのであまり出ないですね。

──では、今日は貴重な機会ですね。お二人はどのようなきっかけでオウケイウェイヴにジョインされたのでしょうか?

加藤 私は、前職はNTTでSI開発や営業、営業社員を対象とした営業コンサルなどさまざまな業務を経験しました。そこからオウケイウェイヴに転職したのは2000年です。

まだ社員が10人ぐらいの創業期で、渋谷のアパートの一室をオフィスとしていた頃ですね。転職して最初の仕事は、今の「OKBIZ.」の前身になるサービスの開発を行いました。その後は海外事業室に移って、アメリカの子会社のOKWAVE INC.のビジネスを推進して、2017年から今の研究開発本部にいます。

長島 私は大学では人工知能の研究をしていたのですが、当時はネットバブルの時代だったので、サイバーエージェントとオンザエッジ(ライブドアの前身)が初めて作った子会社にインターンに行っていました。その会社は後に楽天に買収されることになり、そちらで卒業までアルバイト兼インターンで働きました。

その時の上司と共にモバイル系の会社を起業したあと、2006年にオウケイウェイヴが上場するタイミングに、モバイル事業を強化するという話を耳にしたんです。

当時の上司と弊社代表の兼元が、楽天から出資を受けていた会社の社長同士ということもあり、話をした結果、モバイルやガラケー開発の専門部隊としてオウケイウェイヴに参画することになりました。はじめは子会社の一員として参画しつつ、徐々にオウケイウェイヴ本社の開発に関与するようになっていったというのが経緯になります。

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──現在、オウケイウェイヴは「ABCテクノロジー」を掲げて、新技術の開発を行っています。ですが、これだけ安定した基盤を持っていれば、これまで通りQ&AサービスのOKWAVEと、法人向けのOKBIZ.に注力する道も選べたはずです。それなのに新技術の開発を始めたのには、どういった背景があったのでしょうか?

加藤 「ABCテクノロジー」の「A」は、必然的な流れから始まりました。
私たちは、自分たちが持っているビッグデータを活用して、より良いサービスを提供しなくてはという問題意識がありました。現在、AIはいわゆるR&D(基礎技術開発)というよりも、ビジネスに近い立ち位置で研究しています。私たちはQ&Aのサービスを展開しているので、まずはそこに蓄積されているテキストの領域から着手しています。

――ブロックチェーンはどのように始まったのでしょうか。

長島 ブロックチェーンに関しては、必然というよりも、明確な意思があって始まりました。
代表の兼元は、「人から贈られる感謝を可視化したい」「ありがとうは消えてしまうから、残せるようにしたい」と創業期からずっと言っていたんです。その時にブロックチェーンに出会い、耐改ざん性や、冗長性の部分で消えづらいという性質が最適だと考え、取り組みはじめました。

しかしながら、仮想通貨の事件といい、まだブロックチェーンは事故も多く、人々の抵抗も誤解も大きいじゃないですか。なので、自ら率先して啓蒙し、浸透させないといけないと思っています。「この技術は有効だ」ということを発信していかないと、その先の実現したい世界が形にできないんですよね。

――ただ単に既存のQ&Aサービスを活発化させるためだけの取り組みではないんですね。

加藤 私が2000年にジョインしてから、代表の兼元も副社長の福田も変わってないところが二つありまして。

一つ目は、「感謝を世界中に届けたい」という考え方ですね。なぜかというと、これが「世界平和に繋がるかもしれない」という思いがあるからなんです。国同士の対立があるところでも、Q&Aを活発化させ、人間的なやりとりや助け合いをすることで、平和が生まれるのではないかという信念を持っているんです。

二つ目は、先ほどもお話した「ありがとうの気持ちを形に残したい」ということです。例えば、ヨーロッパの人が質問をしたことにアフリカの人が回答したら、感謝の気持ちが「対価」という形で流通する仕組みを作りたいと考えています。
これは創業期からずっと実現させたいと思っていたのですが、2000年代に1円や10円の単位の金銭のやり取りを行うと手数料の方が高くなってしまい、そもそもシステムとして実現できなかったんです。それがブロックチェーンといった新技術の登場によって、形にできるようになるのではないだろうか。私たちはそう考え、研究を進めています。

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AI、ブロックチェーンの技術そのものが話題になるのも、あと1~2年

――企業理念からどのようにビジネスを展開するかを考え、それを形にするための手段として技術を用いるという考え方なんですね。

加藤 結局、AIもブロックチェーンもテクノロジーは全て「手段」なんです。実現したいことがあって、そのための最適な手段を考え、選んでいくという順番ですね。

――これから作っていきたいもの、取り組んでいきたいものの構想はありますか?

長島 AI技術もそれ自体はあと数年……恐らく1~2年ぐらいでコモディティ化するはずなので、「AI」というフレーズ自体に価値はなくなっていくと思っています。

今はAIビジネスの主流はチャットbotと言われるものですが、今(2018年)時点で世の中に広く出回っているチャットbotは、私たちが2000年時点に研究していた技術よりも前の世代の技術で実は動いているんです。MicrosoftやGoogle、Appleなど、ごく一部の企業が資金を投入してデータを集め、研究している技術だけが「最新」であって、それが世間一般で実用化されるまでにはやはり時間がかかるもの。

とはいえ、近いうちに現在の「最新」技術が浸透するはずなので、サービスの中に人々がAIを当たり前に使いこなせる土壌を埋め込む工夫をしていきたいです。私たちはQ&Aというユーザーの生活に比較的近いところにいるので、具体的な技術を何か新たに開発するというよりも、人々へ浸透させていくことに技術を使うことがミッションですね。

――AIは私たちの暮らしに近い生活領域での応用も進んでいますが、ブロックチェーンは金融領域の技術というイメージが根強いです。でも、お二人からしたらブロックチェーンも生活に近しいものになっているのでしょうか?

長島 ブロックチェーンはどちらかというと、金融の領域からはみ出した所がここからのビジネスの主戦場だと考えています。ブロックチェーンが金融から出ないと思われる理由は、実はシンプルなんです。
ブロックチェーンは金融の考え方、つまりは「お金の取引をデジタルに置き換えられないか」という発想から始まっていますから。その基礎技術を他の部分に応用できないかを考えています。例えば住民票の移転ですとか、台帳管理ができるものはすべて移転できるはずです。

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――ブロックチェーンも生活に近づいてきているんですね。

長島 そうですね。ブロックチェーンが、官民連携により生活に浸透する日が来れば、より安全な世の中を作ることができます。

例えば、IBMがトヨタと行っている事例では、自動車の部品すべてに特有のキーを振り分けてブロックチェーンで管理し、どの製品にどの部品が使われているのかすべて追跡するようにしているんですね。製造業でこういった仕組みができると、例えば「リコールが起きた自社製品がどれだけ廃棄されていて、どれだけまだ家庭にあるのか分からない」という課題が解消されるんです。つまり、移転情報がすべて記載されるという土壌があれば、誰がいつどこで持っているのかが完全に分かるようになります。

これを官民が連携して実現できる日が来ると、何も意識しなくても迅速で安全な危機対応が実現できるようになるんです。そうなると次に問題になるのは、これを「監視社会」と呼ぶのか、「管理社会」と呼ぶのかということ。匿名で管理され、安全が保障されている状態を実現できるのがブロックチェーンであって、それならば適切な社会であると言えるのではないかと私は思います。

加藤 AIもブロックチェーンもそのうち誰でも使えるようになるので、あとはどうやって使うのかを考える段階です。「開発者がいないから何もできない」という状況ではなくなってきています。

――どんどんアイディアが出てきそうですね。

長島 流行ってから「研究し始めました」と言っている会社と、「何年も前から研究しています」と言う会社があったら、どちらにお願いしますか?私たちは、後者を目指して取り組みを進めています。

――たしかに、先に研究開発していたら説得力が違いますね。

基礎技術の開発段階は終わった。いかに数千万件のデータを応用するか

――オウケイウェイヴの開発環境を楽しめる方には、明確な特徴がありそうですね。

加藤 そうですね。うちの数千万件のデータを活用できる環境はとても良いですよね。うちのデータはテキストデータなので、数値よりも複雑で、かつ大量に蓄積されたものがあるんです。なので、そういった環境に興味のある方にはメリットだと感じていただけたらと思います。

長島 技術はどんどん進化していくので、「AIやブロックチェーンをやってみたい」といった興味関心は大事なファクターだと思っています。なので、そういった気持ちがあればオウケイウェイヴの門を叩いてもらえるといいかなと感じます。

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長島 ブロックチェーンもテクノロジーの総称なので、数年のうちにそれ自体に価値はなくなっていくと思います。今の時代に「うちはMySQL使ってるんだよ」って言っても、価値にならないですよね。それと同じように、近い未来には「ブロックチェーン使ってるんだよ」ということも当たり前になっているはずです。

そうなった時に勉強するのではなく、当たり前に使えるようになることを私たちは目指していますので、そういった意欲ある方には適切な環境だと思います。

加藤 結局、AIもブロックチェーンもテクノロジーは手段です。実現したいことがあって、そのための最適な手段があるという順番ですよね。もちろん、私たちのチームも個人を見ればテクノロジードリブンでやりたいという人もいます。それはどっちじゃないといけないというように強制することはないです。そんなさまざまな人間が集まって、私たちの研究開発本部は構成されていますね。

* * *

AIもブロックチェーンも、「人間の仕事を奪う」「人類の頭脳を超える」といった極端な論調が私たちの不安と好奇心を煽る。しかし、学生時代から人工知能を研究し、今では新技術を応用する立場にいる加藤氏と長島氏にとっては、新技術の脅威論も希望論も現実的ではないようだ。「AIもブロックチェーンも手段である」という冷静な視点が、技術と私たちの生活の共存を実現するのだろう。

(執筆者:佐野創太

*1:AI技術、ブロックチェーン技術、チャット技術の頭文字を取った呼称