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最初から完璧な人はいない――DATUM STUDIOが唱えるデータサイエンティストの「採り方」「育て方」とは

「データサイエンス」という言葉は、既に珍しいものではなくなっている。それ故に多くの企業がデータサイエンティスト人材を求めるが、そもそもデータサイエンティストの数はまだ少なく、現時点で29.3%、2030年までに約50%の不足が見込まれているそうだ。(総務省「平成29年版 情報通信白書」より)

これほど社会がデータ活用を求めているのに、なかなか人手不足が解消されないのはなぜか。この理由のひとつに、新しい職種であるため、企業側が採用や育成に苦戦していることがあるだろう。また、個人にとってもモデルケースが少ないために、キャリア戦略を立てにくい状況であることは否めない。そんな、企業にとっても個人にとっても不透明な存在となってしまっているデータサイエンティストの現状を紐解くために、今回はDATUM STUDIO株式会社(以下、DATUM STUDIO)の取締役 里洋平氏に話を聞いた。

 

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DATUM STUDIOは、社員数100名程度の会社ながら、約7割の社員がデータサイエンティストとして勤務している企業だ。里氏は、データサイエンスやデータサイエンティスト育成に関する著書を多数持ち、積極的にコミュニティー活動も行うなど、データサイエンティスト界で活躍している。
そんな里氏が、ヤフー・DeNA・ドリコムでデータ分析に携わる中で見つけた「データサイエンティストに必要な3つの視点」と、仕事を進めるなかで立ちはだかる「無理解の壁」について語った。この2つを理解することは、今後の組織戦略や個人のキャリア戦略にも役立てることができるはずだ。

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【目次】

部署の連携を阻む「無理解の壁」と、知っておくべき「3つの視点」

──すごい髪の色ですね。音楽か何かお好きなのでしょうか?

 昔、音楽はやっていましたね。でもインタビューの冒頭で聞かれたのは初めてです(笑)。髪色は、今はピンクですが時々変えています。

──次は何色になるか楽しみです!では、まずDATUM STUDIOの創業の経緯をお聞かせいただけますでしょうか?

 代表の酒巻(隆治氏)と、2014年に「ビジネス活用事例で学ぶ データサイエンス入門」を共同執筆したことが始まりです。スキルの幅がお互いに広く、被っている部分も多かったので相性が良かったんですね。その中で私はエンジニアリングが得意で、酒巻が分析(データサイエンス)に強みを持っていて、この2つを合わせると強いなと思いました。あとは単純に本が売れたので(笑)、世の中的にデータ分析の需要はあるということも分かりました。このあたりが創業のきっかけですね。

──執筆当時から、DATUM STUDIOが強みとして掲げている「データサイエンティストに必要な3つの視点」*1は見えていたのでしょうか?

 本にも書いたことですしね。3つの視点というのは「ビジネス」、「データサイエンス(=統計解析や設計手法)」、「エンジニアリング(=データ処理に関するコーディング)」それぞれの知識と経験を指しますが、これらは、相互理解が難しい「無理解の壁」が高い分野でもあるんです。

私自身はウェブエンジニアからキャリアを始め、ヤフー株式会社時代に研究開発に近い部署でデータサイエンティストとしての経験を積んできました。そこから株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)に転職し、コンサルティングやビジネス的な考え方にも触れました。どれかひとつだけの経験であれば、考え方の違いや「無理解の壁」があることには気づけなかったはずです。

──「無理解の壁」は、なぜできてしまうのでしょうか?

 簡単にいうと、みんな追っているミッションと時間軸が違うんです。エンジニアは、できるだけ質の高いものを、時間をかけてでも作ろうとします。一方でビジネスの観点では、極端な話では明日にでもプロダクトがほしいですよね。エンジニアにとっては作っているときこそ楽しいんですけど(笑)、エンジニアの根本的な思想はプロダクトアウト、ビジネスの根本的思想はマーケットインという違いがあるんです。

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──分業が進むと、壁は高くなっていきますよね。

 壁を取り払うには、お互いの業務を体験するしかないですね。コードを書くのが得意なメンバーが顧客と交渉してみたり。そうすると、コードが書けなかったり、プレゼンができなかったり、お互いの弱点が見えて相談しあうようになるんですよ。他には、パワーバランスを意識しています。営業が多い会社だと、実作業を行うはずのエンジニアの発言力が弱いということがよくありますよね。弊社はデータサイエンティストが圧倒的に多いですし、契約のクロージングの場面にデータサイエンティストも必ず立ち会うようにしています。だから、無茶な案件がスタートすることはないんですよ。

「即戦力でデータサイエンティストを採用する」のは可能か?

──各社奪い合いの中で、DATUM STUDIOには70名をも超えるデータサイエンティストが在籍しています。企業の規模からするとものすごい人数ですが、採用はどう工夫されているのでしょうか?

 そもそも即戦力どころかデータサイエンティスト自体が市場にはまだ少ないですし、弊社は創業したばかりの頃には、「資金を出して採用する」という強者の戦略は取れませんでした。なので、「データサイエンティスト経験者が創業者」という特徴を生かして、データサイエンティストを育てる道を選びました。

──とはいえ、どんな人でもなれるわけではないですよね。

 まずは、「データサイエンティストに必要な3つの視点」のうちのどれを持っているか、どれが得意なのかを見極めるようにしています。ものづくりが好きな人はマーケティングサイドの考え方は馴染まないことが多いので、苦手なことに自分で薄々気づいている人もいますね。特に弊社だと、「データサイエンティストの人数が多いから、他人と比較することで分かった」と言う人も多いようです。でも、事業会社だとデータサイエンティストは自分だけという状態も往々にしてありますよね。そうなると相談できる相手がいないんです。それでもビジネスサイドからは「まだできないのか?」って急がされたりして……。

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──自分1人で悩んでいても時間だけが過ぎますし、自分の居場所を変える方が早い(転職した方が良い)と考える人もいるかもしれませんね。

 会社の外に環境を作るのもひとつの手ですけどね。私はTokyoRというR言語のコミュニティーを立ち上げましたが、それは「誰かに相談したい、一緒に学びたい」という思いから作ったものでした。R言語だと、プログラマーだけでなくマーケッターなど、エンジニアではない人も参加者の中にいて、異文化交流になるんです。そこで異業界の話になって、その話が自分の業界に応用できることを発見できたりもするので、自分の強みを新たに見つける手段にもしてもらっています。

「開発経験が豊富です」だけのエンジニアは、仕事の幅が狭い

──エンジニアがビジネスの視点を身につけるには何をすれば良いのでしょうか?「無理解の壁」の中でも、両者には特に大きな壁がありそうです。

 確かにこの2つは一番離れた考え方かもしれません。なので、メンバーには時間軸と達成軸を明確に意識することを伝えています。例えば、いつまでにどれくらいのコストでどれくらいの売上を達成する必要があるのかというゴールを意識させると、ビジネス視点は少しずつ身についてきますね。「時間があれば良いものが作れる」と考えてしまう人は、時間軸がないからビジネス視点が弱いと言われてしまうんです。期限とコストの意識を持てば優先順位が見えて、「これはいらない」と引き算の考え方で仕事を進められるようになります。

──ビジネス視点には引き算の発想が必要なんですね。エンジニアとしてキャリア形成をするには、ひとつの道を究めるだけでは難しい時代なのでしょうか。

 エンジニアは「ものづくりだけがしたい」と考えがちです。でも、作れるだけだと世の中にはさらに作れる人がたくさんいて、いつまで経っても一番になれません。なので、エンジニアのキャリアと掛け算できるキャリアを作って、自分の存在をユニークにする必要があります。ユニークになれば、いろいろな会社から求められるし、仕事の幅も広げられます。

──その過程では、経験は同時並行で積み重ねた方が良いのでしょうか?

 レベル感を見極めるべきですね。まだコードも書いたこともない状態でエンジニアリングとビジネスの視点を同時に追い求めると、どちらも中途半端になります。積み重ねるにも実務経験は必須です。でも、「一人前の分析者になるには実務経験が必要で、でも実務経験を積むには分析者になる必要があって……」となって、どっちが先か分からなくなるんです(笑)。鶏が先か、卵が先かとなりがちなので、弊社では得意な領域から実務経験に入って、スキルを掛け合わせていくような流れで育てています。事業会社だと「分析にチャレンジしたいです!」と手を挙げても、「経験がないからだめだ」となりがちなんですよね。

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──今は社会全体が人手不足ということもあり、企業としては、「確実にできる人」に仕事を任せたいのもわかりますが……。

 できる人は、今の仕事に飽きていても成果を出せるから、ロックされてしまうんですよ。新しい仕事をしたい、新しい技術を身につけたいのに、「君は責任者だからね」と言われてしまって異動も難しいんです。居場所を変えずに新たにデータサイエンティストになるための最初のハードルは、そこかもしれないです。職場や周りの環境を変えてでもなりたいと思えているかは問われるんでしょうね。

ひとつ言えることは、データサイエンティストとして腕を磨くのであれば、実際のデータと格闘しないと、自分の強みは見つけづらいです。私は新しいことにチャレンジすることが好きなので、既に知っている因果を見つける運用だけの仕事は辛いと思いますが、人によっては運用が性に合うという人もいますよね。なので、弊社にはデータサイエンティストだけど、仕事の中でそれに気づき、データ環境の基盤を作る案件で活躍する人もいます。

今はデータサイエンティストの定義から問い直す時期にある

──「データサイエンティスト」と一言で括られがちですが、分析だけでなく運用や構築など、手掛ける業務は幅広いんですね。

 「データサイエンティスト」という言葉が持つ定義は、各社でバラバラですね。分析だけを指す時もあれば、3つの視点を全て持った完璧な人のみを「データサイエンティスト」と呼んでいる場合もあるようです。でも、3つの視点のミッションやモチベーションの方向性は全く違うので、最初から3つを兼ね備えている人はほぼいないでしょうね。私もDeNAでコンサル寄りの文化に触れたことで、明確に「無理解の壁」や「3つの視点」を意識できました。

──企業の採用戦略やキャリア戦略を練るにあたって、データサイエンティストの定義をより明確にする時期が来ているようですね。

 そうですね。弊社は創業から今まで「3つの視点」を意識して、データサイエンティストを育てる採用をこれまで行っていましたが、その先へ歩みを進める段階に入りました。DATUM STUDIOをより発展させるために、これまでのDATUM STUDIOにはない経験や文化を持っている人材を採用する時期だと考えています。第二創業期とも言えると思います。既存の案件のみならず、新たな案件も進めたいと考えていますし、そのために各業界や会社でエース級の人材に参画してもらいたいとも考えています。会社が成長する時は、メンバーが成長する時でもあります。これからもDATUM STUDIOを牽引しつつ、自分のキャリアに新しいスキルを掛け合わせたいという方と一緒に、プロジェクトも会社も動かしていきたいですね。

 

* * *

 

ついつい私たちは、「分析もコーディングもできて、ビジネスも回せる」ことをデータサイエンティストに求めがちだ。しかし、里氏は「最初から完璧なデータサイエンティストはいない」と話す。現実を客観視した冷静なこの視点が、個人としてデータサイエンティストを目指し、採用や育成にも携わった人間が辿り着いたひとつの解答なのだろう。

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DATUM STUDIO株式会社 取締役 CAO 里 洋平(さと・ようへい) DATUM STUDIO株式会社
ヤフー株式会社で推薦ロジックや株価の予測モデル構築など分析業務を経て、 株式会社ディー・エヌ・エーで大規模データマイニングやマーケティング分析業務に従事。
その後、株式会社ドリコムにて、データ分析環境の構築やソーシャルゲーム、メディア、 広告のデータ分析業務を経て、DATUM STUDIO株式会社を設立。

(執筆者:佐野創太

 

 

*1:関連記事講演内にて述べられていた「ビジネス」「データサイエンス(統計)」「エンジニアリング」の3つ

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