印刷の老舗だからこそ実現できる「デジタル化」── アナログとデジタルで変わるもの、変わらないもの

近年、ビジネスの世界では「デジタル・トランスフォーメーション」*1「デジタル・ディスラプション」*2という言葉が注目されている。

今の時代において、これまで「アナログ」を前提としたビジネスを展開してきた業界や企業は、生き残りを賭けて変化への対応を迫られる。何もできなければ、デジタル・ディスラプションの波に否応なくのみ込まれてしまうからだ。

そんな背景の中、100年以上の長い歴史を持つ凸版印刷株式会社は、「アナログ」時代から続く老舗の印刷会社でありながら、「企業のデジタル変革を支援する」ことを成長戦略のひとつに掲げ、組織再編などを通じて、近年「デジタル」への取り組みに注力している。

沿革|凸版印刷

今回は、同社のデジタルマーケティング事業を担う情報コミュニケーション事業本部トッパンアイデアセンターの原徹さん、岡田武士さんに、「アナログ」から「デジタル」への変革の取り組みについて話を聞いた。

凸版印刷株式会社 情報コミュニケーション事業本部の岡田武士さん(写真左)と原徹さん(写真右)
凸版印刷株式会社 情報コミュニケーション事業本部の岡田武士さん(写真左)と原徹さん(写真右)

「アナログ」を扱ってきた老舗印刷会社が「デジタル」へ向かう理由は?

1900年の創業以来、国内最大手の老舗総合印刷会社として幅広い事業を手掛けてきた凸版印刷。だが、急速に進行する「デジタル・トランスフォーメーション」への対応を目指し、急ピッチで改革を進めている。

社名からは、旧来の「紙メディアに対する印刷加工」を強くイメージする人が多いかもしれない。しかし実際には、創業当初からクライアント商品のパッケージ印刷をメインに扱いながらも、デザインや企画・制作・マーケティング支援まで幅広く携わってきた歴史を生かし、印刷技術にIT分野の知見も加えた「印刷テクノロジー」への取り組みにいち早く着手してきた。

トッパン小石川ビル内の凸版印刷ショールーム
トッパン小石川ビル内の凸版印刷ショールーム

インターネットやスマートデバイスの普及で、エンドユーザーである消費者の行動パターンが多様化している昨今。凸版印刷の事業が従来の「アナログ」な紙メディアだけでなく、「デジタル」メディアも含むサービスの提供へと拡大していくのは自然な流れといえるだろう。

凸版印刷の事業分野には大きく「生活・産業」「エレクトロニクス事業」「情報コミュニケーション」の3分野があるが、「情報コミュニケーション」は、事業の中心的な役割を担う分野へと成長を遂げつつある。クライアントの顧客コミュニケーションとして、Webはもちろん、メール、モバイルアプリなどを含むデジタルメディアを活用した「デジタルマーケティング」の支援事業にも注力している。

AIやデータ分析と『紙』を活用した「凸版印刷ならでは」のアプローチ

デジタルマーケティング支援の分野には、専業のコンサルタントやITベンダーなども乗り出しており、競争は激しい。そこにおける凸版印刷の強みには、大きく3つのポイントが考えられるという。

1つ目は、これまでのデジタルマーケティング事業への取り組みで培ってきた「施策を具体的な形にできる企画力と制作力」。2つ目は、「企業のデジタルマーケティングを受託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)ビジネスで実績を積んだ運用力」。そして、3つ目が「最終的な顧客とのタッチポイントに、デジタルに加え『紙』のようなアナログメディアを含めて企画実施ができる総合力」だ。

また、近年重要性がさらに増している「AI」「データ分析」を活用したマーケティング施策への取り組みも、本格的にスタートさせている。

例えば、AIを活用したスコアリングなどがその一例に挙げられる。より精度の高い見込み顧客の抽出やキャンペーン施策の実施に当たっては、従来、専門のアナリストがデータ分析を行うのが一般的だった。ここに「AI」を活用すると、より短時間で多くのモデルを作成し、数多くの試行ができる。この分野でのAI活用は、すでに研究段階から、実用フェーズに入りつつあるという。試行結果に基づいた改善サイクルを回すことで、最終的には、より精度の高い自動化モデルをAIが生成することができるようになる。

流通販売の分野でもデータ分析の動きは進んでいる。情報コミュニケーション事業本部 トッパンアイデアセンター コミュニケーションデザイン本部 カスタマーマーケティング2部部長の原徹さんはこう語る。

凸版印刷株式会社 情報コミュニケーション事業本部 トッパンアイデアセンター コミュニケーションデザイン本部 カスタマーマーケティング2部部長 原徹さん
凸版印刷株式会社 情報コミュニケーション事業本部 トッパンアイデアセンター コミュニケーションデザイン本部 カスタマーマーケティング2部部長 原徹さん

「ある流通事業者では、過去の購入データを参照して顧客とのコミュニケーション施策を立てていました。しかし最近では、よりデータ活用のレベルを高めています。SKU(各商品の管理単位)ごとに、独自に付加した『属性』データを組み合わせ、過去の購入傾向から『顧客のタイプ』を割り出して、より細やかなコミュニケーションを行っています。例えば、顧客に送付するカタログに異なるレコメンドを印刷して、購買率の向上を狙うなどですね。こうした『紙の印刷』要素を含むデータ分析施策を立案・実行できるのは、強みのひとつだと思います」

ユニークQRコードを活用して顧客の購買情報を取得する「キャンラボ」をはじめとする「Webキャンペーン支援サービス」や、従来のポイントカードにハウス電子マネーを組み合わせることで売上拡大に貢献する「決済マーケティングサービス」といった分野では、既にクライアントから高い評価と反響を得ているそうだ。

エンジニア自身が『サービスを誰がどのように使うのか?』というところまで考える

UI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)の重要性が高まる中では、どんなに高品質なサービスやアプリを提供していても、ユーザーに使ってもらえなければ意味がない。顧客の接点となる「Webサイト」「スマートフォンアプリ」は、一度開発すればそれで終わりという性質のものではなくなっている。実際の利用状況をデータとして取得・分析し、短いサイクルでフィードバックしながら継続的な改善を行うことで、顧客満足度を高めていくことが可能になる。

しかし、こうした開発体制を作っていくためには、従来の「要件や仕様を外注業者に渡して完成品を納品してもらう」というサイクルのままでは困難だ。プロトタイピングやアジャイルといった、より柔軟でモダンな開発手法を取り入れていく必要がある。

そこで凸版印刷では、現在のデジタルマーケティングのトレンドに対し、よりマッチしたソフトウェアやサービスを作り上げ、クライアントの「デジタル・トランスフォーメーション」を支援するため、開発エンジニア、マーケター、デザイナーがチームを組む新しい開発体制を確立しようとしている。

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2018年4月には、クライアントの課題にスピーディーに対応する目的で、デジタルマーケティング事業部門の組織再編を行った。これまで個別の部門下にあった、企画、デザイン、システム開発、運用、データ分析の各チームを統合したのだ。

主にシステム開発や運用を担当する、コミュニケーションデザイン本部 デジタルプラットフォーム構築部 開発IT課長の岡田武士さんは、次のように語る。

「デジタルマーケティング組織の再編は、企画、デザイン、エンジニアリングなどに携わる全ての担当者にマインドチェンジを促すきっかけになりました」

凸版印刷株式会社 情報コミュニケーション事業本部 コミュニケーションデザイン本部 デジタルプラットフォーム構築部 開発IT課長 岡田武士さん
凸版印刷株式会社 情報コミュニケーション事業本部 コミュニケーションデザイン本部 デジタルプラットフォーム構築部 開発1チーム課長 岡田武士さん

こうした試みを通じて、凸版印刷は自社そのものの変革にも挑戦している。ユーザーにとっての使い勝手や心地良さを追求するために、開発初期の「デザイン・シンキング」からエンジニアが参加していることも、そうした取り組みのひとつだ。

「従来のように画面だけを見つめて、粛々とコードを書くだけでなく、自分たちの作るサービスを『誰がどのように使うのか?』というところまで、エンジニア自身が考える。そうすることで、仕様を具体的なシステムに落とし込んだときに、無駄な手戻りの発生を防止することにもつながります。エンジニアが開発の初期段階から参加し、一つのチームとして協力してやっていくことで、開発スタイルはもちろん、エンジニアに求められるものも変わってきています」(原さん)

従来のものとは違う、時代に合ったアプリケーション開発スタイルをまずは社内で確立し、将来的には標準化されたメソッドとして、クライアントに提供していくことも視野に入れているという。

「消費者の環境や嗜好も刻々と変化するため、お客様自身も顧客とのデジタルコミュニケーションの方法論に明確な正解を描きづらくなっています。ですので、われわれに求められているのは、旧来の『お客様の求めるものを提供する』だけではなく、お客様と一緒になって考え、『こんなやり方はどうだろう』と提案しながら答えを探していく姿勢です」(岡田さん)

「お客様のさらにその先にいるエンドユーザーのことも考えながら、新たなサービスを作り上げていけるような『提案型の支援ができるエンジニアリング体制』を、より強化していきたいと考えています」(原さん)

トッパン小石川ビル内の凸版印刷ショールーム
トッパン小石川ビル内の凸版印刷ショールーム

また、原さんはこう付け加えた。

「お客様が持っている情報を加工して、そのビジネスを支援する。こうした構図は紙メディアが主流だった時代からずっと、凸版印刷が基本としてきたビジネスモデルです。新たな技術が登場して、情報やメディアのあり方が変化したとしても、そこが変わることはありません。今後も、人の生活をより豊かに、心地良くするようなサービスを展開できる企業であり続けたいですね」

(取材・文:柴田克己、編集:北内彰一)

*1:ネットワークやAI、IoTなどを含むデジタル分野の技術が幅広く急速に進歩することで、社会や産業のあり方に影響を与え、変化させること

*2:進歩したテクノロジーが、既存のビジネスや産業の枠組みを“破壊”しかねないほどのイノベーションを生みだす現象