1つの会社に勤めながらキャリアの幅を広げ続ける方法 LINE 那須利将さん

IT業界を取り巻くテクノロジーは日進月歩で変化しています。だからこそ、自分が興味を持つ分野、やりたい仕事・技術を追求したり、自身のキャリアアップに向け転職を重ねたりするWeb・IT系エンジニアはあまり珍しくありません。

そうした中、長く転職をせず、1社に留まって“キャリアホップ”を続けているのが、LINE株式会社に所属するエンジニア・那須利将さん。もともと電子工学を専攻していた那須さんがプログラミングの面白さに目覚め、本格的にプログラムを始めたのは大学4年生の頃。以来ずっと、開発第一線の現場で活躍し続けています。

そんな那須さんに、転職することなくキャリアの幅を広げていくエンジニアライフをお聞きするべく、インタビューにお伺いしたところ、「名刺を持っていないんです」との言葉が。実はそこに、那須さんのエンジニアライフを象徴する理由がありました。

LINE株式会社 那須利将さん
LINE株式会社 那須利将さん

那須さんが名刺を持たなくなった理由

──名刺を持たなくなったのはなぜでしょう。

那須 特に大きな理由ではないのですが……会社の名前も住所も数回変わっていますし、いろいろなことをやっていて所属チームもしょっちゅう変わるため、そのたびに名刺を作り直さないといけないんです。一時期は毎月のように新しい名刺を申請してはすぐに使えなくなってしまったこともありました。来月にはまた変わるかもしれないので、自然と名刺を持つ機会が少なくなってしまったのです。2010年に検索エンジンの会社「ネイバージャパン」(現LINE)に転職して以来、8年以上ずっと同じ会社に勤務し続けていますが、気分としては「いつもどこかに転職しているような感じ」です(笑)。

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──今はどのような内容の仕事をしているのですか?

那須 今年(2018年)2月に設立された「LINE Blockchain Lab」で開発を担当しています。このラボは、ブロックチェーン技術を活用し、“LINEらしい”新しいサービスや基盤を作っていくことを目的に設立された組織です。現在日本で5人、韓国では20人以上のエンジニアが在籍しており、コラボレーションしながら研究開発を進めています。

──ラボに異動する前からR&Dに従事されていたのでしょうか。

那須 いえ、違います。入社した時は、写真共有サイト「pick」(2015年8月サービス終了)の開発を担当していました。pickはPC版とモバイル版の2種類のサービスがあり、私が担当したのはモバイル版の方です。その2週間後には、「NAVER cafe」(2014年6月サービス終了)というコミュニティサービスの開発にも参加していました。

コミュニケーションアプリの「LINE」が立ち上がったのは、入社して1年も経たない、2011年6月だったと思います。その間も、まとめサービスや画像検索アプリ、フォトアルバムなど本当にたくさんのサービスの開発に従事しました。そのうち「LINEに集中するように」という会社の方針で、LINEのさまざまなサービスや基盤の開発業務に従事するようになったのです。

──かなり多くの業務を経て、「LINE Blockchain Lab」に異動した理由は?

那須 ラボに異動したのは、ブロックチェーン技術に興味があったからです。具体的に「何をやりたい」というのではなく「何か新しいことをやりたいな」とずっと考えていました。そこでブロックチェーン技術に興味を持ち、自分で手を挙げて異動しました。

──異動や仕事内容については、エンジニアの要望が反映される社風なのでしょうか。

那須 そうですね。社内公募も多いので、興味があれば手を挙げて異動するエンジニアが多いです。

LINEという会社には、ネイバーにいたエンジニア、NHN Japanでゲーム開発に従事してきたエンジニア、そしてライブドアにいたエンジニアと大きく分けて3つのグループがあります。ネイバーのエンジニアがLINE、NHN JapanのエンジニアがLINE GAME、ライブドアのエンジニアがLINEファミリーアプリの開発とそれぞれ棲み分けされていて、私自身はもともとはネイバーのエンジニアでした。

その中で、それぞれのエンジニアの興味ややりたいことに従って、チームを組んだりプロジェクトが立ち上がったり、コラボレーションしたりという社風です。

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那須 基本的にどのエンジニアにも共通している特徴は、9割近くはプレイヤーとして開発に従事するタイプが多いことです。マネジメント側に進む人もいますが、プレイヤーとしてもキャリアを積むことができるので、マネジメント側に行かなければキャリアアップが望めないということはありません。そのせいか、開発が好きというエンジニアが多いですね。実際、CTOクラスでも自分でコードを書くという人がいます。

電子工学専攻の学生時代、ソフトウェアエンジニアリングの面白さに目覚めた

──那須さんがIT業界に入ったきっかけは何ですか?

那須 単純にプログラミングへの興味が強かったのです。プログラミングが楽しくて、それを仕事にしたいと思ってIT業界を選びました。

──コンピュータや情報系を専攻されていたのですか?

那須 いいえ、学生時代は電子工学を専攻していました。いうなればハードウェアの方です。ハードは機械なので、設計して電子回路を組んで……と、ある程度決まっているというか、完成されている部分が多いんです。もちろん、決まっている範疇に収めるように新しいプロダクトを設計する楽しさもあるとは思いますが、私は「ソフトウェアで制御する」という部分に惹かれました。

──新卒時はそのままIT業界の門戸を叩いたわけですね。

那須 はい。最初に入社したのはSI企業です。その会社では、BtoB向けの生産管理システムを開発していました。当時はVBなどマイクロソフト系のテクノロジーを使った開発、あとはOracleなども多かったですね。

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那須 そのうち、Javaやオープンソース系の流れが登場し、インターネットにつながったサービスやアプリケーションの開発をきっかけに、そちらにシフトしていきました。今ほどインターネットの情報が充実していなかったので、自分で本を読んだり、ソースコードを見たりしながら勉強したんです。

そして新卒入社して1年経つか経たないうちに、インターネット系の仕事の方が面白そうということで、初めて転職をしました。そこもSI企業でした。ネイバー(LINE)に転職するまで8~9年ほどその会社に勤務していたので、実は転職回数はあまり多くないんです。

──2社目のSI企業ではどのような仕事を担当されたのですか。

那須 SI企業でしたが、インターネット系の企業との取引が多かったんです。当時の主な業務はモバイルコンテンツの開発でした。ちょうど、NTTドコモがiモードの定額制プラン「パケ・ホーダイ」を打ち出した頃で、iモードが爆発的に普及したためです。また、さまざまな企業に出向する機会が多数ありました。同じ会社に勤めていても、出向先がさまざまだったので、ここでも転職しているような気分でした(笑)。

ただ、あくまでも請負だったので、出向先で一緒にサービスを開発していても、どうしても「自分はメインにはなれない」と思うことがありました。社員の方と同じ気持ちで「使ってもらえるサービスを開発したい」と思ってプログラミングをしていても、やはり私が責任を取る立場にはなれません。

そこで、「気持ちの上でもっとコミットしてサービスを開発したい」と思うようになり、自社でサービスを開発している企業で仕事をしたいと考えました。ネイバーに入社した理由はそこにあります。

「1000万人超のサービス開発」に従事した時、世界が違って見えた

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──SI企業からネイバーへ環境が変わり、仕事やカルチャーなどで違いを感じた点を教えていただけますか。

那須 「これまでと全然違う環境に来たな」というのが第一印象です。それまで勤めていた2社は日本企業で、いい意味で協調性を重んじるところがあったのですが、逆にいえば事前に各部門へ根回しするなど、遠回りしながらプロジェクトを進めることが多く、工数や時間がかかっていました。

ネイバーでは、「ベストはこのやり方」という意識でプロジェクトを進めることが多く、決めたら一切無駄なことをせずに、スピード感を持って開発していきます。誰かが「これが正しいやり方だ」と決めれば、パッとその方針で進めていく。これは今でも変わりません。

入社して以来、短期間で多数のサービス開発に従事してきましたが、そういうことができるのも、意思決定スピードが非常に早いからだと思います。

──技術的な成長はいかがでしょうか。

那須 ご存じのように、LINEにはさまざまなサービスがありますし、求められる技術要件も多様なので、本当に多くの知見、さまざまなバックグラウンドを持つ優秀なエンジニアがたくさんいます。そうしたエンジニアたちと一緒に働けることは刺激になりますし、成長にもなりますね。サービスを開発しているというだけでもすごいのに、周りの人もさらに優秀。本当にすごいな、と思います。

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那須 技術面にもバラエティに富んでいます。LINEというと、安定した開発が続いていると思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。最初は「ゼロからスクラッチで立ち上げていく」という開発でしたが、今や国内だけでも月間7800万人以上のアクティブユーザーがいるアプリです。すると、「大量アクセスがあってもサービスを絶対に落とさない」というように考え方がシフトしていくんです。だからこそ、開発側の責任も大きくなってくるわけです。

開発当初は数百万ユーザーの規模を想定していたとしても、実際にユーザーが1000万人を突破すると、もう見える世界が違ってきます。シンプルにいえば、開発者の脳みその作りを変えないといけない。「これまでこうやってきたから」が全く通用しなくなり、「こうあるべきじゃないか」というところから作り直さないといけません。そこで大きく成長できると思います。

エンジニアの「刺さるポイント」がいくつもある環境

──これまでと考え方を変えるような大きなエンジニアリング体験について、具体的なエピソードを教えてください。

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那須 ビジネス向けサービス「LINE@」の立ち上げや、botの開発、LINEメッセージ周りのストレージサービスの開発などいろいろな分野に関わっていましたが、どれもすごいですよ。botでいえば、規模が大きいアカウントになると、フォロワー数が2億人くらいいます。その人が1通のメッセージを書くと、それを2億人のフォロワーへ瞬時に送る必要があります。トラフィックが一極集中する瞬間の「ホットスポット」があって、その一瞬の中で大量の処理をしないといけないんです。

LINEのメッセージングといえば、常にハイアベイラビリティ(可用性が高いシステム)の状態でやり取りされています。その中で、突発的に大量のメッセージが来ることもあります。このシステムの設計は非常に難しいんですよ。常にピークの状態を前提に設計すると、通常の状態では稼働しない無駄な部分が生じてしまいます。ですから、ピークの状態と平常時とで分離させたり、あるいはデータ設計の方で工夫して書き込みを分散させたり、読み込みが遅くなるのであればそれに耐えられる構造にしたりなど、常に「これまでと違う、もっといいやり方がないか」を考えるようになります。

──サービス一つとってもやりがいがありますね。

那須 そうですね。実際にピーク時のグラフを見せられると、やはりエンジニアとしては「何とかしないといけない」と思います。それがLINEのエンジニアのスタンスですね。スケジュールや技術に一切妥協はありません。だからこそ、意思決定を速くすることを徹底しているんだと思います。

技術面で見ても、「ハイトラフィックをさばいていく」という点と、技術的に解決しなければならないことが多いという点は、エンジニアにとって非常に魅力的です。実際、そこに惹かれて専門性を持つ優秀なエンジニアが入社してきていますね。

その一方で、私がいる今のラボは、ゼロからフルスクラッチで開発することが好きなエンジニアが多いです。専門に特化したエンジニアからラボでやっている業務を見た場合、技術的なクリティカルミッションが発生すれば興味を持つかもしれませんが、今はたぶんそれほどでもないでしょう(笑)。エンジニアの興味・関心に刺さるポイントがいろいろあるのが、LINEという会社の特徴です。だからこそ社内公募制度が活発で、それでモチベーションが持続するのかもしれません。

エンジニアは、エンジニアリングの面白さを楽しもう

──転職してキャリアアップや技術力を向上していくエンジニアが多い中、那須さんは転職せずにキャリアの幅を広げているのですね。

那須 そうなるのでしょうかね……。たまたま会社がいろいろなことをやっていて、個人の希望に沿った異動も可能なので、自然と成長できる環境なのだと思います。

──働く環境にうまく恵まれていない、もしくはやりたいことがあってもなかなかできない環境にあるエンジニアもいると思います。そういうエンジニアの方にアドバイスがあるとしたらいかがでしょうか。

那須 それぞれのエンジニアで、置かれている環境や状況は違うと思います。もし、そこでキャリアアップや成長の機会、やりたいことをやるようにするには、やはり提案をし続けていくことが大事だと考えています。

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那須 実は今の会社だけでなく、前職の時も「こうした方がいい」「こういうことをやらないといけない」など、言うべきことは声を上げてガンガン言っていたんです。だからこそ、長く勤められたのかもしれません。ただやはり、事業ドメインとして、受託ではなく自社でサービス開発をしている企業に行きたかった。だから転職に至ったんですよ。

──これからはどんなことをやっていきたいと考えていますか。

那須 昨年(2017年)、機会があって中国の深センに行ったのですが、それはそれは驚きでした。あるベンチャー企業では、街まで作って実践的な研究開発が進んでいるんです。そこで冗談混じりに、当社のIoT研究チームに「街を作ろうよ」と誘いをかけています(笑)。街の開発をしてみたいですね。

今はブロックチェーン技術の上で新しいサービス開発に取り組んでいますが、今後も基盤となる新しい技術は次々に出てくると思いますし、そういう技術に追随して新しいサービスを生み出していきたいと考えています。いずれにせよ、コンシューマーサービスが好きなので、その分野で新しいことに挑戦していきます。

──今後もLINEでキャリアを積んでいくのでしょうか。

那須 うーん、正直分かりません(笑)。いま自分が分かっているのは、「エンジニアリングは楽しい」ということで、結局はそこに尽きると思います。

他の方へアドバイスというほどのことは言えませんが、個人的な希望でいえば、「エンジニアの方にはエンジニアリングが楽しい、ものづくり自体を楽しいものと思っていただきたい」ですね。「人をまとめて作っていくことが楽しい」というのであれば、そういうキャリアに進み、「ものづくりの楽しさをずっと追求したい」のであれば、エンジニアリングに突き進む、というように、自分で道を見極めていくことが大切だと思います。

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那須 利将(なす・としまさ) nasu_t
ネイバージャパン株式会社、NHN Japan株式会社を経てLINE株式会社に在籍。現在は「LINE Blockchain Lab」にてブロックチェーン周りの開発を担当。

(取材・構成:岩崎史絵)